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世界の食トレンドと求められる3つの視点


みなさんは「ガストロノミーツーリズム」という言葉をご存じでしょうか?


その土地の気候風土が生んだ食材や習慣、伝統や歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたツーリズム(国連世界観光機関による定義)のことで、現在、食の世界で大きなトレンドとなっています。


消費者の興味や関心が「モノからコトへ」と変化するなか、食に対しても「コンテンツからコンテクストへ」、つまり料理そのものの美味しさに加えて、料理に使われている食材の背景やその土地ならではの独自性へと評価視点が変化しています。


この変化を牽引しているレストランのひとつに、デンマークの「noma」があります。北欧の食材と生産者に光を当て、その文化を伝えることをコンセプトに2003年に開店しました。2013年には米国のTIME誌に掲載され、食を目的にデンマークを訪れる観光客は11%増加したと言われています。


photo:The World's 50 Best Restaurants

日本でもコンテクストを意識した取り組みは進んでいます。古代から御食国(みけつくに)として栄えた兵庫県の淡路島にある日本料理店「fuku」は、料理長が自ら足を運んで選んだ淡路島の食材を使った料理を提供しています。


地域の食材の豊かさ、季節感、コースの緩急、空間演出など、どれをとっても非常に高いレベルで、淡路島の食の可能性をふんだんに感じさせてくれます。淡路島における食の取り組みの詳細は「淡路島ファムトリップ」の記事をご覧ください。


(2021年11月18日 / 弊社代表撮影)



もうひとつの大きな変化として、「SDGs」への関心の高まりに伴い、食においても多様性や持続可能性といった視点が不可欠になってきたことが挙げられます。


従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の食糧生産に伴う環境負荷やフードロス、アニマルウェルフェア(動物の福祉)などの課題を踏まえ、持続可能な地元の生産物や固有食材の使用、伝統的な料理実践や料理方法、環境に対する尊重と取り組みが求められるようになっています。


とくに欧米では畜肉生産に伴う環境負荷への関心が高まり、若者を中心に牛肉などの赤身肉を敬遠する傾向が強まっています。


このような消費者の変化を捉え、ミシュランガイドで最も多くの星を持つ「ジョエル・ロブション」は、2015年から各国に展開するレストランで動物性食材を使わないベジタリアン・メニューを提供しています。


また2017年に世界のベストレストラン50でトップに立った「イレブン・マディソン・パーク」は、2021年6月に植物性の食材のみを扱うプラントベース・レストランとしてリニューアル・オープンしました。


シグニチャーだった鴨料理もプラントベースにリニューアル



日本では東京都の青山一丁目にある「The Burn」が注目を集めています。


サスティナブルグリルをコンセプトに掲げ、使用する牛肉に経産牛を使ったり、野菜も有機栽培のものを仕入れるなど、持続可能な食材を積極的に利用しています。また「みんなが同じ食卓でごはんを食べられる」ように、ヴィーガンオプションを特別扱いせず、肉を使ったコースと同じレベルでヴィーガンコースも常時提供しています。


(2022年3月8日 / 弊社代表撮影)



このような大きな変化のもと、ウィズコロナ・アフターコロナ時代の食には、次の3つの視点が求められていくでしょう。


一つ目は、地域の固有品種やブランド食材、伝統や日常生活に根ざした食文化と調理法などを活用する「コンテンツの再発見と再認識」の視点。二つ目は、多様性と持続可能性を発信する「コンテクストの整理・発信」の視点。三つ目は、シンプルな食材構成と分かりやすい表示やマークを活用する「フードダイバーシティ対応」の視点です。


これらの3つの視点が相互に重なり合う商品やサービスを提供できる事業者が、これからの消費者の共感と支持を集め、長期的な顧客獲得と経営の安定化につながることでしょう。



続く


 

フードピクトでは、全国の宿泊施設や飲食店を対象にした講演や研修、自治体や観光協会を対象にしたファムトリップの参加やコンサルティングを提供をしています。ご相談・ご依頼は「お問合せ」より気軽にお寄せください。


(本記事は「月刊クリンネス」2022年3月号の巻頭特集に寄稿した内容をもとに、寄稿では割愛した国内事例を追加して再構成しています)

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