top of page

世界に通用する顧客体験を届ける3つのステップ


 こんにちは、フードピクトの菊池信孝です。本記事では前編の「世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割」に続き、多様化する消費者ニーズに応えて世界に通用する食体験を提供するための3つのステップを8つの事例とともに紹介します。


 

1.主体的な選択のための情報提供


 多様化する消費者ニーズに応えるステップの一つ目は、主体的な選択のための情報提供です。これは第一部で紹介した消費者が食に求める役割の「主体的な選択」ニーズに応える取り組みです。

 

 多様な食習慣や嗜好があるお客様を受け入れる土台となるステップであり、観光庁が推奨する情報開示に基づく食事対応と同じ考え方です。ここでのポイントは次の3点です。

 

(1)多様な食習慣の理解

(2)現在のメニュー構成と使用食材の把握

(3)分かりやすい表示を使った情報提供

 

(1)多様な食習慣の理解については、ベジタリアンやヴィーガン、ハラールやコーシャなどの宗教による食禁忌、食物アレルギーについての基本的な知識が必要です。

 

 ベジタリアンとは、菜食だけ、または菜食に加えて卵や乳製品を食べる人の総称です。ベジタリアンになる理由は、動物愛護、環境保護、ライフスタイルなど様々で、その実践方法についても下記の表のように多くの種類が存在します。


ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド

 SDGsや持続可能性への意識の高まりに伴い、ベジタリアンは世界的に増加傾向にあり、インドでは人口の約3割、イギリスでは人口の約2割、台湾では人口の約1割と推計されています。また若い世代を中心にベジタリアンになる人も増加傾向にあります。


(2)現在のメニュー構成と使用食材の把握については、食物アレルギーの特定原材料8品目と、宗教戒律やベジタリアンに関する8品目の、計16品目の有無を確認します。

ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド

(3)分かりやすい表示を使った情報提供については下図のように、料理番号、日本語の料理名称、英語の料理名称、料理の写真、フードピクト、価格、支払方法の7項目があると親切です。その他にもヴィーガンに対応しているメニューにはアルファベットの「V」の表示や、地元産の食材を使っている場合は「LOCAL」の表示をつけることも有効です。

 

ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド

 これらのポイントを踏まえ主体的な選択のための情報提供を実施している事例には、どのようなものがあるでしょうか?

 

 

 動物性の原材料とアルコールを使用していないことをフードピクトを用いて商品パッケージに分かりやすく表示することで、食に制約がある消費者をはじめ、主体的な選択をしたい消費者からも支持を得ています。

 

 また飲食店の事例としては[事例08]東京青山にあるレストラン The Burn が挙げられます。

 

 国産の熟成肉をメインに扱う同店では、オーガニックの野菜を使用したヴィーガンのコースとアラカルトを常時提供し、さまざまな国籍や宗教、食習慣がある人が同じテーブルを囲める空間を提供しています。

 

 宗教による食禁忌については、下記の表のようにさまざまな種類があります。それぞれの宗教が発展する過程で、食にも文化的な意味づけが加えられ禁忌が生まれました。例えばイスラム教では豚とアルコールの摂取が禁止されています。

 

ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド

 現在、世界には少なくとも19の宗教と240の団体があり、同じ宗教でも宗派や地域により違いがあります。またひとつの家族のなかでも親と子で厳格さが異なるなど、宗教による食禁忌は個人差が大きいという特徴があります。


 食物アレルギーについては、国連食糧農業機関と世界保健機関が設置したコーデックス委員会が世界共通のアレルゲンとして8品目を規定し、この規定を基に各国がそれぞれの実情にあわせた表示ルールを策定しています。

 

 そのため国によりアレルゲンの表示義務の有無や、その対象が異なります。日本では容器包装食品で表示義務がある特定原材料8品目と、表示を推奨している特定原材料に準ずる20品目が規定されています。


ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド


2.コンテクストとしての食の顧客体験の提供

 

 多様化する消費者ニーズに応えて世界に通用する食体験を提供するステップの二つ目は、コンテクストとしての食体験の提供です。これは第一部で紹介した消費者が食に求める役割の「コミュニティへの帰属」ニーズに応える取り組みです。


ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド

 商品や料理などのコンテンツ(モノ)を、その背景にある社会や文化という文脈にどのように位置付けて体験してもらうか(コト)を設計します。ここでのポイントは次の3点です。

 

(1)コンテンツとコンテクストの整理

(2)購入や食事の事前と事後を含めた体験設計

(3)食事を食体験へと昇華させるホスピタリティ

 

(1)コンテンツとコンテクストの整理とは、提供する商品や料理について、第一部で紹介した3つの役割と9つのキーワードから自社に関連するものを明確にし、提供する商品や料理(コンテンツ)が、社会や文化という文脈のなかでどのような役割を果たすのか(コンテクスト)を整理して伝えることです。

 

 例えば[事例09]Plant Journeyは自治体や食品企業を対象に、プラントベースの手法を用いた環境負荷が低い商品開発のサポートと、消費者がその商品に携わる生産者や料理人との交流を通して商品の世界観を理解できる体験型プログラムの企画運営を提供しています。

 

(2)購入や食事の事前と事後を含めた体験設計は、上記で明確にしたコンテンツとコンテクストについて、お客様が商品を購入する時や料理を召し上がる時だけではなく、その前後の過程を含めて戦略的にコミュニケーションを図り、顧客体験を総合的に設計することです。

 

 例えば[事例10]代々木上原にあるレストラン sio は、来店の前後の体験をオンラインを使って事前に設計し、料理を楽しむ二時間を二年間の食体験に拡張しようとしています。

 

(3)食事を食体験へと昇華させるホスピタリティは(1)と(2)を統合し、商品や料理のおいしさだけではなく、記憶に残る特別な食体験にするためにお客様とコミュニケーションをする技術です。

 

 例えば[事例11]ニューヨークにある Ci siamo は、すべてのお客様を心地よくもてなす接客術が際立っています。

 

 同店はミシュラン三つ星レストランからハンバーガーチェーンまで幅広く飲食店を運営する Union Square Hospitality Group の新店舗で、同グループの創設者兼会長であるダニー・マイヤーの「サービスは独り言、ホスピタリティは対話」という言葉が体現されています。


ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド


3.持続可能な食に向けた取り組みの実践

 

 多様化する消費者ニーズに応えて世界に通用する食体験を提供するステップの三つ目は、持続可能な食に向けた取り組みの実践です。これは第一部で紹介した消費者が食に求める役割の「パーパスの発見」ニーズに応える取り組みです。ここでのポイントは次の3点です。

 

(1)自社の取り組みと強みの整理

(2)専門知識や技術がある会社との連携

(3)ガストロノミーとサステナビリティの両立

 

ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド

(1)自社の取り組みと強みの整理とは、第一部で紹介した消費者が食に求める9つのキーワードやSDGsの17の目標のなかから、現在の事業内容と関連性が高いものを選び、いまある商品や料理を編集することで自社の強みを伸ばしていくことです。

 

 例えば[事例12]ロンドンにあるレストラン 123 VEGAN は、アニマルウェルフェア(動物福祉)の視点から、消費者に人気のある寿司やハンバーガーなどをプラントベースで提供しています。ミシュランシェフだから実現できる本当においしいプラントベースの料理を通して、消費者の意識行動変容を誘い、持続可能な食のサイクルをつくろうとしています。

 

(2)専門知識や技術がある会社との連携とは、日々進化するフードテックやアグリテックに強いスタートアップやベンチャー企業の力を借りて、その知識や技術と、大企業が持つリソースを結びつけ、時代と消費者ニーズに即した事業展開を加速させることです。

 

 例えば[事例13]イギリスを拠点にする Wicked kitchen は、イギリスとアメリカにある150社以上の食品メーカーとパートナーシップを提携し、プラントベースの商品開発をサポートしています。同社が開発する商品はプラントベース食品市場のなかでは割高ですが、専門的な知識と技術で美味しさと持続可能性を両立させ、消費者の支持を得ています。


(3)ガストロノミーとサステナビリティの両立とは、商品をつくる工場や料理をつくる厨房にとどまらず、その食材が生まれるところから消費され処分されるところまで視野を広げ、バリューチェーンの全てのプロセスにおいてより良い選択肢を選んでいくことです。

 

 例えば[事例14]ユネスコの食文化創造都市に認定されている大分県臼杵市は、地域をあげて有機農業を推進しています。自治体が地域の資源を活用した堆肥づくりを担い、有機農業で育てられた農産物を学校給食で使用する取り組みを通して、持続可能な食のバリューチェーンを造りだしています。


 第一部では消費者が食に求める3つの役割と9つのキーワードをもとに消費者の本質的なニーズを、第二部では世界に通用する食体験を提供するための3つのステップを紹介しました。

 

ヴィーガン、オーガニック、食品表示、顧客体験、食トレンド



 

 株式会社フードピクトでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。


 最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。



 また本事例集に関する講演や寄稿のご依頼にも対応しています。講演内容の詳細やこれまでの実績は下記よりご覧いただけます。


Commentaires


bottom of page